2006年12月の日記


2006年12月1日(金)

 職場に到着。更衣室でユニフォームに着替えていたら、後藤田チーフが、入ってきました。
 彼、自分のロッカーを開けると、中から、一冊のファイルを取り出します。
「何ですか、それ?」
 と聞く私に、後藤田チーフは、快く中身を見せてくれました。

 例の、トレーディングカードホルダーというやつでした。

 ホルダー内には、仮面ライダーや怪人たちのカードが、びっしりと、何十枚も。
 紛れもなくそれは、最近復活した、仮面ライダーチップスに付属している、カードでした。後藤田チーフも、そう語っていました。

 見てはいけないものを、見てしまったようです。
 私、不覚にも、胸の辺りに、「ボッ」と、炎のようなものが灯るのを、感じてしまいました。

 くそう。もう、この手のカードには、手を出さないと誓ったはずなのに。
 ……はずなのに、もうダメなんだ。
 俺の魂が、吠えているんだ!

 結局、仕事が終わった後、買ってしまいました。6袋も。
 これ、正式な名称は、「仮面ライダーチップスR」っていうみたいですね。
 1袋につき、カードが2枚も入っているので、お買い得です。
 しかし、ポテトチップスのほうは、わずか22gしか入っていません。そしてお値段は、80円もします。
 やっぱり、お買い損なのかもしれませんね。

 買い物が終わった後は、更衣室に行き、カードの入っている袋を開け、中身を取り出します。
 ポテトチップスのほうはというと、古谷チーフのロッカーを開け、その中に、詰め込みます。

 実は、今日、仕事中に、古谷チーフに頼んでおいたのです。
「オイラには、カードだけあればいいんです。ポテトチップスは必要ないから、是非もらってください」と、いうようなことを。
 もちろん古谷チーフ、喜んで承諾してくれました。

 ポテトチップスを、古谷チーフのロッカーに必死に押し込んでいると、副店長が登場。私に、言います。

 副店長:「お前らさ、みんなで、古谷を痛風にしようとしてるのか? あいつ、痛風の一歩手前なんだよ。医者から、『ポテトチップスはもう食うな』って、止められてるんだから。それなのに、後藤田さんと村井がどんどんロッカーに入れるから、あいつバクバク食っちゃうんだよ
 私:「でも、古谷チーフも、『しばらくはポテトチップスに困らないから、ありがたい』って言ってましたよ」
 副店長:「バカだ(笑) あいつもバカだ

 なんと。古谷チーフが、医者からポテトチップスを止められていたとは、初耳です。
 仕方ありませんね。私、古谷チーフの健康のために、彼のロッカーに入れるポテトチップスの量を、減らすことにしました。
 あげるのは、3袋だけにしておきました。

 それにしても、私以前にも、すでに、ポテチの寄付行為をしている人たちが、いたんですね。みんな、考えることは一緒ですね。
 ちなみに、副店長の言う、「村井」というのは、村井(兄)さんのほうです。村井(兄)さんは、仮面ライダーマニアとして知られており、このカードも、当然、集めているのです。

 ところで、副店長の最後の一言。「あいつ“も”」というのが、気になります。古谷チーフ以外にも、バカな人がいるということなのでしょうか? だとしたら、誰のことなのでしょうか?
 皆目見当がつきません。


2006年12月2日(

 出勤早々、グロサリーの渡辺チーフに声をかけられました。

 渡辺チーフ:「どうする?」
 私:「え? 何がですか?」
 渡辺チーフ:「ライダーチップス、1ケース、取っとく?
 私:「……いくらになるんですか?」
 渡辺チーフ:「24袋入りで、1920円」
 私:「うーん……。じゃあ、お願いします!

 結局、1ケース、私だけのために、注文してもらっちゃいました。ふふふ。

 ……え? 何か、何か私は、間違ったことをしましたか?

 売り場で、後藤田チーフから、ダブッたカードをいただきました。
 21枚も。
 ありがとうございます、後藤田チーフ。あなた、立派な人です。

 今日は、全部で、4袋購入しました。
 憧れの、シャドームーンが出ました。しかも、キラカードです。

 昨日は、いきなり、アマゾンライダーが当たったし、今日、後藤田チーフがくれたカードの中には、ライダーブラックが入っていたし。
 好きなキャラクターが、こんなに早い段階から出まくるなんて、ボクは、幸せ者だなあ。


2006年12月3日(

 閉店後、仮面ライダーチップスを持ってレジに並んだら、前に、副店長が。
 彼、私が手に持つ、カッコいいお菓子を見て、言います。

「お前らバカだ。お前ら、バカの集まりだ

 おおっと。私や後藤田チーフの生き様を、真っ向から否定する発言ですね。

 しかし、副店長に、人のことを言う資格があるのでしょうか。
 実は昨日、こんな会話があったのです。

 私:「副店長もどうです? ライダーチップス、買いませんか?
 副店長:「絶対買わねえ。そんなもん、もし全部集まっても、全然うらやましくねえから」
 私:「でも、これがもし、ガンダムのカードだったら、買うんじゃないですか?
 副店長:「いや……どうだろう……。やっぱ立体感がないと、意味ないし……

 副店長、あなた、丸っきり、オタクじゃないっすか。
 それも、我々よりも好みのうるさい、よりヘビーなオタクじゃないっすか。

 同じく昨日、古谷チーフとも、似たような会話が交わされました。

 チーフ:「やっぱり樫木さんは変態だったんだな。もう、目を合わせないことにしよう
 私:「いや、でも、チーフだって、もし昭和ガメラのカードがあったら集めるんじゃないですか?
 チーフ:「それはいいなあ。それだったら、集めるかもしれない。だって、それだったら、いいだろ?

 ええ。そうなんです。
 古谷チーフは、昭和ガメラシリーズの、大ファンなんです。
 それだけではありません。彼、未来少年コナンや、吉本新喜劇、大映テレビドラマシリーズのファンでもあるのです。

 どうやら、副店長の言う、「バカの集まり」は、思ったよりも多くの人たちで構成されているようです。

 みんな、男の子だね!


2006年12月4日(月)

 インターネットを使って調査した結果、驚くべき事実が判明してしまいました。
 なんと、仮面ライダーのカード、カードのみでも、売っていたのです。
 商品名は、ズバリ、「仮面ライダーカードR」。1パック9枚入りで、お値段は298円。おもちゃ屋等に、売っているそうです。
 明らかに、チップスを買うより、こっちを買うほうが、合理的ですね。

 早速、買うことにしました。ウチのスーパーには置いていないので、ちょっと遠くにある大型スーパーまで行き、買います。
 4パック、購入しました。
 それに加えて、通常のライダーチップスも、4袋購入。
 さらには、ライダーカードをコレクションするための、カードホルダーも購入。
 購入、購入、購入の嵐です。

 カードは、全部で171種類。
 もう、そのうち、69種類も集まってしまいました。

 凄いですねえ。
 だって私、まだ、集め始めて、たったの4日目なんですよ。


2006年12月5日(火)

 先月は、なんとか、サイトの更新を果たすことができました。
 エラいですね、私って。

 だけど私、もう一つの重大な目標のほうは、達成し忘れてしまったようです。
 ようやく、気づきました。

 ヤクザもののVシネマ、先月は、1本も観てなかった。


2006年12月6日(水)

 一昨日買ったばかりのカードホルダー、もう、不要な物になってしまいました。

 だって今日、見つけて、買ってしまったのです。

 表紙に背表紙に、ライダーたちの写真が沢山プリントされた、「仮面ライダーカードRの、オフィシャルカードバインダー」というやつを。

 2580円もしました。

 でも、どう考えても、それくらいの価値はありますよね。
 ね? ね? ね? ね?


2006年12月7日(木)

 渡辺チーフに注文した品、本日、入荷されました。
 仮面ライダーチップスが、まるまる1箱、私のものになったのです。
 こんなに幸せなことが、今までに、あったでしょうか。

 本日の、ライダーチップスの箱を開ける前の段階で、私が集めることができたカードは、90種。
 後藤田チーフのほうはというと、101種。
 背中が見えたぞ! 待っていろ、後藤田さん!

 でも、まだ、厳しいか。
 だって今日、後藤田チーフが注文したライダーチップスも、1箱、届いちゃったもんな。

 さて、生肉の値引き中、鮮魚の飯間チーフに話しかけられました。
 彼、後藤田チーフからもらったという、数枚のライダーカードを私に見せ、
凄いよな。カッコいいよなぁ
 と、それを絶賛し始めました。
 彼は、このカードを集めてはいないはずですが、どうなのでしょうか? 彼も、心は、ライダーの虜なのでしょうか。
 もしそうなら、非常に嬉しいのですが。

 それから彼は、
仮面ライダーでは誰が好きなの?
 だとか、
ウルトラマンでは誰が好きなの?
 だとか、質問してきました。
 私が、「特撮好きであり、ライダーのカードを集めている」ということは、もうすでに、店中に知れ渡っているのです。だから彼、私を選んで、こんな問いをぶつけてくるのです。

 飯間チーフからの質問に答えた後、私、しばらくは、仕事そっちのけで、彼と、ライダーについて語らいます。

 ほほう。飯間チーフも、なかなか見どころがある御仁ですなあ。
 待っているからね。良かったら、いつでも、こっちの世界へおいで。


2006年12月8日(金)

 仕事が終わった後、村井(兄)さんの運転する車に乗り、清水さん以外の清水組メンバーで、会議を兼ねた食事会に出かけました。
 いうまでもないことですが、行き先は、ファミレスです。

 参加者は、村井兄弟と、私と、桐島さん。
 桐島さん、あのカレーパーティー以来、清水組のメンバーに数えられるようになっているのです。
 彼自身は、清水組の一員になれたことを、どちらかというと喜んでいるようなのですが、それを差し引いて考えても、気の毒な話ですね。

 で、今日の議題なんですが、「清水さんへの贈り物は何にするか」でした。
 実は、先月の中旬ごろから、「今度の送別会にて、我々清水組で、清水さんに、何かプレゼントを贈ろう」という話になっていたのです。
 言いだしっぺが誰なのかは、よく分かりません。少なくとも、私ではありません。

 話し合いの中で、いろいろな案が、出ては消えていきました。
 インスタントのごはんを贈るのがいいんじゃないかとか、いや、ホワイトカレーのルーがいいんじゃないかとか、土鍋がいいだろうとか、フライパンでも悪くないだろうとか。

 最終的には、この街(ウチの店のある街)の土産物屋で、この街を象徴するような、ちょっとしたアクセサリーか置物か何かを買い、贈り物としようということで、話がまとまりました。
 清水さんに、いつまでも、この街を忘れずにいてもらうために、という趣旨で。

 泣かせる話ですね。
 いい奴らだよ、お前ら。

 ま、私は、酒を飲んでばかりで、この話し合いには、ほとんど参加してはいなかったんですけどね。


2006年12月9日(

 仕事を終えた後の更衣室で、店長に、不思議なことを言われました。

 店長:「今度の送別会の後、清水は、樫木君の家に泊まるんだって?
 私:「え!? 違いますよ。そんな話にはなってませんけど
 店長:「そうなの? でも、みんなそう言ってるよ。誰に聞いても、おんなじこと言う

 いつの間に、そういう方向に話が進んでいたのでしょう。
 私、そんな話を認めた覚えもなければ、頼まれた覚えもありません。
 全くの初耳です。

 困りましたねえ。うちに、清水さんを泊めることは、できんのですよ。
 私の部屋には、清水さんの分の布団が、ないんですから。


2006年12月10日(

 佐藤さんがテスト休みでいないため、今日の私は、朝から晩まで丸一日出勤。
 昨日から少し体調を崩しているせいもあり、なかなか大変な一日でしたが、なんとか、こなすことができました。

 閉店業務のその後のこと。またしても、グロサリーの渡辺チーフにお願いしてしまいました。
 ライダーチップスを、1ケース。

 ふふっ。まだまだ、オイラの夢は、続くのさ。


2006年12月11日(月)

 今日は、いろいろあって、仕事量が非常に多い日。私、自主的に、いつもより1時間早く、出勤しました。午後5時に、出勤したのです。

 いつもならば、こういう忙しい日は、私と佐藤さんの2人ともが出勤するのですが、あいにく今は、佐藤さん、テスト休みの真っ最中。彼女の分まで、私が頑張るしかありません。

 昨日にも増して、今日は大変でした。
 閉店後30分経っても、まだ、肉屋の仕事が終わらないほどでした。

 でも、いいんです。
 こうやって稼いだお金が、ライダーカードを買う軍資金になるのだと考えれば、それだけで、苦痛なんて、どこかへ吹っ飛んでしまいますよ。


2006年12月12日(火)

 今月の8日の話なんですが、当サイトの総アクセス数が、4000に到達いたしました。皆さん、ありがとうございます。
 3000ヒット到達から、2ヶ月と経たないうちに4000を突破するとは、まさに、「疾きこと風の如し」ですなあ。
 「今までが、のろのろだっただけだ」という説もありますけどね。

 この、あまりにも素早い4000ヒット到達、間違いなく、チン太さんのおかげです。
 彼が、チンゴ!内の掲示板とブログに、我がサイトへのリンクを張ってくださったおかげであることは、疑う余地がないのです。
 なんたって、リンクが張られた12月1日には、100人以上の方が、ウチのサイトを訪れてくれましたからね。
 普段は、1日に1ケタしか人が来ないことだってあるくらいだっていうのに。

 チン太さん、並びに、チンゴ!内のリンクから訪問してくださった方々、ありがとうございます。改めて、お礼をいいます。
 おかげさまで、ショボい拙サイトは大盛況です。

 ただ、残念なことに、アクセス解析を見る限りでは、リピーターの方は、ほとんどいらっしゃらないようです。
 たぶん、すぐに、元の、1日に1ケタペースに戻ってしまうんではなかろうかと思います。


2006年12月13日(水)

 出勤直後、古谷チーフから、私と佐藤さんに、大事なお話がありました。

 「最近、世間では、ノロウイルスが猛威をふるっている。もし従業員が、感染し、しかもそのことに気づかなかったら、この店で集団感染が発生してしまう可能性がある。だから、ノロウイルスによる感染症の主症状でもある、高熱や下痢や嘔吐などの症状が出たら、速やかに病院へ行き、検査してもらってくれ」
 要約すると、こんなような内容の話でした。

 テスト休みから復活した佐藤さん、これを受け、しょうもないことを言いました。

「自分、ずいぶん前、アイス食べて吐きましたよ。水色でした

 無理すんなって。
 もう少し、休んでたほうがいいんじゃないか?


2006年12月14日(木)

 本日をもって、連続出勤は終わり。明日は、先週の火曜日以来のお休み。そして、清水さんの送別会です。
 会費は、社員が、1人4000円。パートが、1人3000円。
 バイトの私はというと、なぜか、社員待遇。4000円を支払わされます。

 この送別会、実は、忘年会をも兼ねています。したがって、多くの社員が、参加します。
 お酒が飲めないために、あまり、こういった飲み会の類が好きではない古谷チーフも、付き合いで、参加します。

 でも、やっぱり古谷チーフ、本当は行きたくないみたいです。
 私に、愚痴ってきました。

「全くホントに、4000円あったら、チョコがどれだけ買えると思ってるんだ。ああ、もったいない」

 重症だな、こりゃ。

 そうそう。ライダーカードの収集枚数のほうね、今日、めでたく、150枚に到達しましたよ。
 残りはあと、21枚。いよいよ、当たりの出る確率が、ガクッと下がってきやがりました。

 ちなみに、後藤田チーフのほうはというと、まだ、120枚台しか、集められていません。
 よし。このまま、このまま振り切るぞ!


2006年12月15日(金)

 では、清水さんの送別会兼忘年会のあらましについて、語るとしましょうか。

 私が、自分の勤めるスーパーの、休憩室に入ったのは、ちょうど、午後6時半のことでした。この時間に、ここに集合し、みんなで、例の焼き鳥屋に向かうことになっていたのです(別に、直接会場に向かっても、いいことにはなっていたんですけどね)。酔っ払って帰ることを想定して、私、わざわざ、徒歩でやってきました。

 休憩室の中で待機していたのは、本日お休みの、古谷チーフだけでした。
 他の人はみんな、直接、会場に行っているのかもしれません。我々は、二人だけで、会場にレッツゴーすることにしました。
 古谷チーフの運転する車の、助手席に乗せていただき、ブブーンと、焼き鳥屋に向かいます。

 焼き鳥屋に入ったらば、早速、予約してある、2階の、宴会用の座敷(9月20日の飲み会の時と、同じ部屋)に入ります。

 そこにいたのは、幹事である、村井(兄)さんただ一人でした。
 古谷チーフは、座敷の一番奥の座布団に、私は、その隣の座布団に、それぞれ着座。しばらくは、3人で雑談などして、時間をつぶします。

 幹事さん、古谷チーフに対し、注意を促したりもしていました。
 「後藤田チーフが、『今日は、古谷チーフの豊満な肉体を狙う』宣言していたので、気をつけたほうがいいですよ」と。
 これを受けて古谷チーフ、
「分かった。気をつける(笑)」
 と、肝に銘じていました。

 7時前には、幹事さんも、姿を消してしまいます。本日の主役である清水さんを、最寄りの駅へと、迎えに行ってしまったのです。

 会の開始予定時間である、午後7時の前後になると、続々と、参加者たちが集まってきました。
 グロサリー部門のパートさんたち(計10名)、同部門の渡辺チーフ、鮮魚部門の厚木さん、平林副店長に、鮮魚部門の大沢さん、青果の政村さんといった面々が、次々に登場、着席してくれやがります。
 パートさんたちは、皆、座敷の真ん中当たりの席に座り、社員さんたちは皆、座敷の入口あたりに陣取ります。
 私と古谷チーフは、多くの社員さんたちと離れ、孤立してしまった格好です。

 そうこうしているうちに、時計は、7時15分を回りました。まだ、今日の主役は、姿を現しません。もちろん、彼を迎えに行った幹事も、同じくです。肝心な人がやってこないので、いつまで経っても、飲めないし、食えません。

 痺れを切らした副店長、とうとう、フライング宣言をしてしまいます。「清水なんかもうどうでもいいから、忘年会を始めてしまおう」と、いうのです。
 その言葉に、会場のみんなは、飲み始め、食い始めます。
 私も、古谷チーフにビールをついでもらい、飲みます。もちろん私からも、チーフについで差し上げます。彼はお酒が飲めないので、つぐのはビールではなく、ウーロン茶ですが。

 食べ物のほうは、私が、2人分、食べました。
 別に、食い意地が張っているからじゃあありませんよ。
 古谷チーフが、「お願いだから食ってくれ」と、自分のぶんの皿を、差し出してきたためです。
 幹事さんが、事前に、人数分、予約してあったメニュー。なんと、魚料理のコースだったのです。
 実は古谷チーフ、大の魚嫌いで、一切の魚介類が、食べられないのです。
 だから私が、代わりに、私が食べてあげたのです。そうです、これは人助けなんです。絶対にそうです!

 私が、古谷チーフのぶんのお魚を食べていると、遠くから、副店長の解説が飛んできました。

「古谷は、肉と菓子しか食わないんだよ。『ポテトチップスはサラダだ』って言い切った男だからね、あいつは

 なかなか斬新な発想をなさるんですね、古谷チーフ。

 それからさらに時間が経って、7時半ごろのことでしょうか。ようやく、幹事さんが帰ってきました。今日の主役・清水さんを連れて。
 清水さんの登場に、会場からは、拍手が沸き起こります。清水さんは、照れ笑いを浮かべます。
 清水さんは、座敷の入口付近に着座。幹事の村井(兄)さんは、古谷チーフの向かいの席に座りました。

 ここへきて、初めて、乾杯です。
 本来なら、乾杯の音頭を取るのは、幹事の仕事なのでしょうが、副店長が、勝手に仕切ってしまいます。
 「清水は、今度の異動でサブチーフに昇格したんだ。栄転だ。おめでとう」というような、軽い挨拶をした後、副店長は、
「乾杯」
 と、一言。
 その声の後を追って、みんなのコップが、カーンと、音を立てます。
 そして再び、拍手、拍手です。

 乾杯からほどなくして、幹事の村井(兄)さんが、入口近辺の席へと、引っ越してしまいました。副店長に、「幹事が一番奥に引っ込むとは何ごとか!」と、移動を命じられたためです。
 ま、副店長に言われたら、従うしかありませんわな。
 当初、村井(兄)さんがいた席には、入れ替わりで、政村さんがやってきました。

 大きな声の副店長を中心に、盛り上がる、入口付近の社員さんたち。そして、真ん中ら辺のパートさんたち。
 それに対し、やけに寂しい、私の周辺。
 政村さんと古谷チーフが、「平林副店長は、こないだ受けた昇任試験に、合格した。もう、階級的には、店長にもなれる。きっと今度異動があった際には、店長に昇格だ。すごいな」などと話し合ったりはしていますが、ひたすら、小声で、地味なのです。ちっとも、盛り上がらないのです。
 飲み会が苦手な古谷チーフなんぞ、もうすでに、
「帰りたいなぁ……」
 などと、つぶやき始めているほどです。
 このころにはもう、古谷チーフも存分に食える、焼き鳥もやってきていましたが、それすらも、彼のテンションの下がりを止めることはできません。

 そこへ、仕事を終えた後藤田チーフが、颯爽と登場。私の向かいの席に、座ります。
 待ってましたとばかりに、私、彼に、こう、切り出します。
「清水さんも離れた所にいるし、あんまり話も盛り上がらないので、ここは一つ、仮面ライダーについて語り合うとしましょうか
 後藤田チーフは、快く、同意してくれました。

 こうして、私と後藤田チーフを中心に、ライダートークの渦が発生。我々は、この渦に、古谷チーフと政村さんをも、無理矢理、巻き込んでいきます。
 意外だったのは、近くにいた、数名のパートさんたち。なんと、自ら、この渦の中に飛び込んできてくれたのです。
 中でも、ある、30代前半くらいの美人のパートさん(私と会話するのは、今日が初めて)は、ライダーに、とても興味のある方のようでした。
 ちょっと、その時の会話の一部を、抜粋してみましょう。

 私:「アマゾンライダーに出てきた、マサヒコ君役の子は、その後、もののけ姫で、アシタカの声優をやったんですよ」
 後藤田チーフ:「へぇー。それは知らなかった」
 美人のパートさん:「アマゾンの最後の敵って、十面鬼でしたっけ?
 私:「十面鬼は、アマゾンの、前半戦のボスですね。ゲドンの首領です。最後の敵は、ゼロ大帝っていう、ガランダー帝国のボスです。この、ゼロ大帝役の中田博久っていう役者さん、キャプテンウルトラでもあるんですよ」
 後藤田チーフ:「キャプテンウルトラって、小林稔侍も出てなかったっけ?
 私:「出てましたね。変な宇宙人役で出てました

 反社会的とすらいえるような、ヒドい会話ですね。

 ライダーだけでは寂しいので、次第に話題は、『光戦隊マスクマン』、『超獣戦隊ライブマン』、『ドラゴンボール』、『新世紀エヴァンゲリオン』などへと、広がっていきます。
 これらは決して、私が主導したものではありません。パートさんたちが、こういう話題を、振ってくるのです。
 彼女たち、どういうわけか、老若を問わず、スーパー戦隊やドラゴンボールに、異様に詳しいのです。
 私の左隣に座っていた、どう見ても50は超えてるおばちゃんが、
ドラゴンボールのキラカード、沢山持ってるよ
 と、嬉々として言った時には、さすがにビビりましたぜ。

 私も、酔いが回ってテンション上がり、マニアックな話に盛り上がるうちに、時は流れ、いつの間にか、もう、夜の9時。
 そこへ、やってきました。仕事をなんとか終わらせ、やってきました。斉藤店長と、春井さんと、鮮魚の飯間チーフが。

 これで、今日、参加予定の社員は、全員、揃ったことになります。
 こういった親睦会の類が大嫌いな、常に我が道を行く、青果の磯部チーフ。そして、異動に際して、清水さんから挨拶がなかったことに、未だに怒り心頭の、野沢さん。この二人を除き、ウチの店の全ての社員が、この座敷に集結したのです。お部屋はもう、ギュウギュウです。

 さて、みんなが揃ったところで、贈り物タイムです。今まで没個性的だった、幹事の村井(兄)さんが、急に、司会進行を始めます。

 最初に、社員代表が、ネクタイを、次に、パート代表が、わざわざ北海道から取り寄せたという、清水さんの大好きなバームクーヘンを、それぞれ、清水さんに渡します。もちろん、清水さんは大喜びです。
 最後に、バイト代表。私の出番です。
 贈り物タイムのちょっと前に、村井(兄)さんから渡されていた、包み。それを手に、清水さんに歩み寄ります。
「なんか、なんか来たよ。オタクみたいな奴来たよ(笑)
 という、副店長からの黄色い声援を浴びながら。

「いろいろと、お世話になりました」
 という一言に乗せて、私、包みを、清水さんに手渡します。
 この包みには、数日前に村井(兄)さんが購入した、置物が入っているのですが、私は、一度も、中身の品物を見てはいません。

 清水さん:「ありがとう。何が入ってるの?」
 私:「それは、開けてからのお楽しみで」

 「開けてからのお楽しみ」とは、我ながら、上手くごまかしたものです。
 実際には、「渡している人間も、自分が何を渡しているのか、よく分かっていない」という、実にロマンチックな状態なのです。
 これにて、贈り物タイムは終了。ですが、村井(兄)さんの司会のお仕事は、まだまだ続きます。

 次は、清水さんの挨拶タイム。清水さん、みんなから囃し立てられ、その場で、立ち上がります。

「異動して、1ヶ月以上。……俺、勘違いしてました。この店の方たちのほうが、ずっと、あったかかった」

 ここまで語ったところで、店長から、
「なんだ。今ごろ気づいたのか」
 渡辺チーフから、
「お前、成長したな」
 という、茶々が入りました。

 そんな、愛のある冷やかしに笑顔を見せつつ、清水さん、その後も喋り続け、無事、挨拶をまとめ上げます。そしてまた、盛大な拍手です。

 続いては、店長からの挨拶です。
 村井(兄)さんに指名され、立ち上がった店長、まずは、清水さんの栄転云々に関する、祝辞を述べます。
 その後、唐突に、話題が私に移りました。
「それから、今日、佐藤さんに仕事を押しつけてまで、清水さんの送別会に参加者してくれた、樫木君。ついさっき、君から贈り物をもらう段階になって、ようやく清水さんは、『えっ!? 今日、樫木君来てたんだ?』なんて言ってましたから。清水さんは、そういう薄情な人間ですから、よーく、覚えておいてください」
 会場は、笑いに包まれます。
 飯間チーフの、
いい加減に目を覚ませ!
 という、私に対する呼びかけも聞こえます。
 その後は、またしても、拍手。店長は、再び、席に着きます。

 店長からのお言葉の後は、皆さん揃って一本締め。音頭を取るのは、やっぱり幹事です。

 これが終わったら、ここで一旦、お開き。
 しかし、あくまでも、「一旦」です。
 ここで帰ったのは、店長・飯間チーフ・厚木さん・大沢さん、それから、数名のパートさんたちくらい。遅れてやってきた、総菜屋のパートの岸さんも加わって、宴は、まだまだ続くのです。

 そうそう。後藤田チーフも、帰ってしまいました。「第一次お開き」から、ほどなくして。彼、パッと、風のように、いなくなってしまったのです。

 結局、不発に終わりましたか。良かったですね、古谷チーフ。
 純潔が守り通せて。

 ライダー仲間の後藤田チーフもいなくなってしまったことですし、私、ビールの入ったコップを片手に、移動します。何人かの人が帰ったことによって空席になった、副店長の左隣の席へと。
「副店長。また、蒲生氏郷とかについて語り合いましょう
 と、声をかけたら、副店長、大喜びで、座れ座れと言ってくれました。

 それにしても、私の口説き文句、素敵ですねえ。
 何が素敵って、前回の飲み会時、私たちは、蒲生氏郷についてなど、語り合っていないという点です。

 さて、こうして、再び、私と副店長の戦国トークが始まるかに見えましたが、なかなかこれが、私の思い通りに行きません。
 副店長、自身の右側にいる、パートさんたちの群れとのお話に夢中になり、ほとんど、私に構ってくれないのです。大好きな、B'z・浜崎あゆみ・BoAなどに関する話を、延々と、パートさんたちに話して聞かせるばかりなのです。

 しょうがありません。私、左隣に座る春井さんと話すなどして、時間をつぶします。

 副店長、古谷チーフに、暴言を吐いたりもしていました。彼の、プライベートモードでの傍若無人ぶりは、今日も健在だったのです。
 追加注文の希望を、皆さんから取る副店長。その際、彼、古谷チーフに、こんな風に声をかけたのです。

おい! おいッ! デブ!

 どうかと思いますぜ、この代名詞は。
 こんな呼び方をされてるのに、即座に自分のことだと気づき、普通に返事をしている古谷チーフも、どうかと思いますぜ。

 まだまだ、副店長とパートさんたちとのお喋りは、終わりません。春井さんとの話に飽きた私は、副店長の真後ろに移動。その右隣に座る、50代くらいの、あるパートさん(やはり、私と会話するのは、今日が初めて)と、話し込みます。
 私、彼女に対し、情熱的に、小田原城の素晴らしさを説いたり、彼女からの、高校生の息子さんの進路についての相談に乗り、いろいろと、アドバイスをしてあげたりしました。
 ろくに知識もないくせに、識者ぶって。

 その後、また、副店長の左隣の席に戻った私、ちょっとしたことをきっかけに、向かいの席に座る渡辺チーフと、戦国トークを開始しました。
 そう。なんと、渡辺チーフも、結構な戦国ファンだったのです。私も、本日、初めて知りました。
 私、彼と、楽しく語らうことができました。いつもは、ドライな性格で、近寄りがたい雰囲気の彼ですが、今日は、お酒のおかげで、ずいぶん陽気でしたしね。
 龍造寺隆信のことや、長宗我部盛親のことを、存分に語り合うことができました。

 渡辺チーフは、副店長とも、たびたび言葉を交わしていました。パートさんたちと副店長とのワイワイトークの合間を縫うようにして、親しげに、会話していました。戦国関連の話ではなかったけど。
 彼らの話から、いろんなことを学ぶことができました。
 「副店長は、完全に奥さんの尻の下に敷かれていて、家では、弱い」ということとか、「渡辺チーフは、娘に名前を付ける際、昔付き合っていた女性の名を付けようとして、奥さんにキレられた」ということとか。
 うん。勉強になりました。

 私が、他の人たちの話を聞いたり、他の人たちと話したりしているうちに、春井さんは、溶けるように消滅していました。彼、いつの間にか、音も立てず、ひっそりと、退散していたのです。

 やがて、古谷チーフにも、帰還の時が訪れます。
 ずっと、帰りたがっていた彼、ずっとずっと、目立たぬように帰れるタイミングを、待っていたのでしょう。
 しかし、運が悪かった。
 座敷の出入口から一番遠い席にいたせいか、彼の撤退は、皆さんの注目を浴びてしまったのです。

「エ〜ッ。もう帰っちゃうの〜」
 と、残念がるパートさんたち。
 古谷チーフ、優しい性格をしており、体の太り具合も可愛らしいので、パートさんたちから、人気があるのです。

 彼女たちに続けて、副店長、こう言いました。

「なんだお前、もう帰んのか? つまんねえ人生だな!

 ひでえよ、副店長。
 何も、人生そのものを否定しなくたっていいじゃないですか。

 副店長、近くの席にいたパートさんの一人、篠山さん(仮名、推定年齢30代前半・女)にも、困った発言をかまします。

「俺たち、すげえ仲いいもんな。俺たち、セックスフレンドだもんな!

 事実無根。メチャクチャな言いがかりです。
 この、たちの悪い冗談に、篠山さんは、どう返したらいいのか思いつかず、困惑顔。

 そうか。分かったぞ。
 これがいわゆる、セクハラっていうやつか。

 さらに時計の針は進み、お時間は、午後11時に。
 このころになって、ようやく、登場しました。閉店業務を終えた、村井(弟)さんと、桐島さんが。

 ……という、ちょうど切りのいいところで、忘年会はお開き。副店長の提案により、皆さん、解散です。結局私、副店長との戦国トークは、できずじまいでした。
 村井(弟)さんと桐島さんは、着座すらも、できずじまいでした。

 座敷を出る間際、副店長、篠山さんに、言いました。
「夜道は危ないから、送っていってあげようか?
 そう、冗談っぽくも、しつこく迫る副店長。またも篠山さんは、困惑フェイスです。

 見かねた私、彼女に、救いの手を差し伸べます。
 副店長を指さし、笑顔で、
この人が一番危ないかもしれない
 と、ツッコミを入れたのです。
 即座に私、
余計なこと言いやがって!(笑)
 と、彼に、頭頂部をパチンと平手で叩かれましたが、その甲斐あって、彼の彼女に対する申し出は、どこかへ流れていきました。
 うーん、立派だな、私。
 まさに、ナイトですね。

 その後、それぞれ靴を履き、店を出る私たち。
 しかし、このままでは、とても終われません。
 ここで終わっては、村井(弟)さんと桐島さん、何をしに来たのか、全く分かりません。
 そうです。これから、二次会が行われるのです。清水組限定の、二次会が行われるのです。なんか、その場の成り行きで、そうなってしまったのです。
 すでに、沢山のお酒にやられ、疲れていた私は、正直なところ、とっとと帰って寝たかったのですが、そうもいかず。結局、清水組の一員として、彼らと行動を共にすることになりました。
 清水さんと私は、村井(兄)さんの車に、桐島さんは、村井(弟)さんの車に乗り込み、いざ、出発進行でございます。

 行った先はどこかというと、カラオケ店。ここで、朝まで歌おうということになったのです。

 焼き鳥屋を出てから、車に乗り込むまでの間に、清水さん本人から聞いたのですが、彼、私の家に泊まるつもりなど、元より、全くなかったそうです。
 いやはや、ちょうど良かった。私も、泊めるつもりなんて、微塵もなかったので。

 しかし、となると、「一体誰が、『清水さんは、私の家に泊まるつもりでいる』なんてデマを流したのか?」という疑問が生じて来ますが、まあ、それは置いておきます。

 で、清水さん、今晩、どこに泊まるつもりだったのかというと、これが驚き。
 なんにも、考えてなかったというのです。
 それで、土壇場で仕方なく、カラオケで朝まで過ごすことに決めた、と、こういうわけなんです。

 何という、計画性のなさ。
 実に、すがすがしいですなあ。

 カラオケでは、私、もうお酒は、飲みません。すでに、十分すぎるほど、飲んでいるのでね。
 運転手である村井兄弟と、未成年である桐島さんも、飲みません。みんな、口に入れるのは、食べ物とソフトドリンクだけ。
 酒を飲むのはただ一人、清水さんだけです。

 そんな清水さん、歌のほうは、歌いません。一曲たりとも、歌いません。
 彼、カラオケは、苦手なのだそうです。来たことも、数えるほどしかないのだそうです。

 ホントに、すがすがしいですなあ。

 彼以外の4人は、どんどん、歌います。
 予想外だったのは、桐島さん。木村カエラの歌を連発しまくっていました。
 私はというと、「セタップ!仮面ライダーX」や、「アマゾンライダーここにあり」や、「戦え!仮面ライダーV3」などの、そっち系の歌を歌い、悦に入ります。

 さて、そんな、不毛な時を越えて、とうとう迎えました、16日の、朝の5時。
 もう、始発電車は動き始めているはずです。
 やっと、帰れます。

 我々は、カラオケ店を、出ました。料金は全額、清水さんが、支払ってくれました。
 さすがは組長! 漢気あるじゃないっすか。ご馳走さまです!

 帰りは、私と桐島さんが、村井(兄)さんの車に、清水さんが、村井(弟)さんの車に乗ります。

 エンジンをかけた、村井(兄)さん、まずは、自分の勤めるスーパーに向かいます。
 そこで、桐島さんとは、お別れです。
 桐島さん、駐車場に自転車を置いたまま、焼き鳥屋まで来たのです。帰りは、その自転車に、乗ってくのです。

 私は、贅沢にも、自宅前まで、送っていってもらいます。
「ありがとうございます。今日は幹事の仕事、ご苦労さまでした」
 という定型句を述べた後、私、車を降り、ただもうまっすぐ、家の中に入りました。

 これでようやく、休めます。

 お酒をたらふく飲んだ後に、長時間起き続けるのは、良くありませんね。
 とにかく、体中が痛いです。


2006年12月16日(

 悲しいです。

 昨日の疲れから、今日は、ほとんど丸一日、寝てしまいました。

 でも、悲しいのは、そんなことじゃないんです。

 寝てしまったせいで、今日は、ライダーチップスを買うことができなかったのです。
 そのことが、悲しいのです。
 悲しくて悲しくて、仕方がないのです。


2006年12月17日(

 今日は日曜日。私、午前中から出勤だったのですが、やけに仕事量が多かったため、古谷チーフに頼まれ、夜まで居残る羽目になってしまいました。

 長時間勤務することになったので、夕方、休憩時間をもらうことができました。
 そのお時間のこと。休憩室にて、後藤田チーフと一緒になりました。

 彼のライダーカードホルダーを広げ、仲良く二人で眺め、くつろいでいると、そこへ、副店長がやってきました。

 副店長は、「俺にも見せてくれ」と、そのカードホルダーを手に取り、食い入るように各カードを見つめ、ページをめくっていきます。
 そうしながら彼、言いました。

「すげえよなぁ。ホントこれ、ゴミだよなあ

 結局、ゴミって結論なのかよ。

 渡辺チーフに注文してあった、2箱目のライダーチップス、ようやく今日、届きました。
 しかし、思わぬアクシデントが発生。渡辺チーフの情報伝達ミスにより、私のライダーチップスが、グロサリーのバイトの誰かの手によって、箱から出され、売り場に並べられてしまったのです。

 夜、私に注文の品を渡す段になって、ようやくそのことに気づいた渡辺チーフ、即座に、売り場から、1箱分のライダーチップスを回収。別の段ボール箱に移し替えて、謝罪の言葉と共に、私に渡してきます。
 私としては、ブツさえいただければ、何も文句はありません。丁重にお礼を言って、それを受け取ります。

 しかし、ちょっとは、気になりましたよ。
 なんだってよりによって、ライダーチップスを移し替えた先が、本みりんの箱なのかと。

 さて、帰り際、夜の9時ごろのこと。副店長から驚愕の事実を告げられました。

 ウチの店の、今年度の、小袋スナック全体の売り上げ、前年度比600%にも及んでいるそうなのです。

 ライダーチップスバトルが始まったのは、1年も終わりに近づいてからだっていうのに、それでも、去年の6倍にまで膨れ上がっているのです。
 しかも、1商品だけの話ではなく、小袋スナック全体の売り上げが、6倍になっているのです。

 どんだけ売れてるんだよ、ライダーチップス。
 どんだけ買ってるんだよ、俺たち。

 ちなみに、ライダーチップス単体での売り上げは、100店舗以上ある、ウチのスーパー全店の中で、ウチの店が、ダントツ1位だそうです。

 そりゃあ、そうでしょうよ。


2006年12月18日(月)

 昨日手に入れた、ポテチ24袋分のライダーカード、今日、全て、開封してしまいました。
 48枚ものカードが、一気に手に入ったわけです。
 にもかかわらず、そのうち、まだ私が持っていなかった新しいカードは、わずか3枚
 たったの3枚しか、コレクションは増えなかったのです。

 苦しい戦いだなあ。
 最近じゃあもう、カードのみ9枚入りの、あのパック、どこの店にも置いてないし。

 くぅ。もう一箱か。


2006年12月19日(火)

 後藤田チーフから、ダブりカードの束を、ドッサリといただきました。
 その中には、1枚だけ、ありました。まだ、私が持っていないカードが。
 前々から、欲しい欲しいと思っていた、モグラ獣人のキラカードです。

 私からも、後藤田チーフに、ダブりカードの群れを差し上げました。
 その中には、彼がまだ持っていないカードが、3枚、含まれていたそうです。

 現時点で、私が収集できたカードは、158種。
 一方の後藤田チーフは、147種。

 ずいぶん伸びたな、後藤田チーフ。
 ヤバい。迫ってくる。ヤバい。

 でも、でも、きっと大丈夫。
 今日、渡辺チーフに、もう1箱、注文しといたから。


2006年12月20日(水)

 今月15日の日記中にあった、清水さんの、
「異動して、1ヶ月以上。……俺、勘違いしてました。この店の方たちのほうが、ずっと、あったかかった」
 というセリフ。
 この、「勘違い」について、補足説明をいたしましょう。

 以前、店長から聞いた話です。

 清水さん、ウチの店での最後の出勤日の、朝礼の時間、皆さんに、別れの挨拶をしたのだそうです。これ、人事異動等で店を離れる際には、誰もが通る道です。
 なんと、彼、その挨拶で、「この店での毎日は、ツラかった」と、言い切ってしまったらしいのです。冗談や皮肉ではなく、大マジメに。

 普通、別れの挨拶で、そんなことをバカ正直に言う人など、いません。
 朝礼参加者の皆さんは、笑いを堪えるのに、必死だったそうです。

 勘の良くない方でも、とっくに気づいたとは思いますが、要するに、清水さんの言った、「勘違い」とは、「その時の、『ツラかった』という思いが、勘違いだった」ということなのです。
 新しい店に行ってみて、ようやく、前の店の温かさに気づいた、と、こういう話なんです。

 でもまあ、清水さんが、ツラいという感想を漏らしてしまうのも、それほど不思議ではないのかもしれません。
 グロサリーの渡辺チーフは、厳しい人だし、野沢さんは、普段は優しいけれど、怒らせたら危険だし、店長は、うるさいし、副店長は、激しいし。

 それでも清水さん、挨拶の最後は、
「いつか、チーフになって、この店に戻ってきたいと思います」
 と、マトモに締めたそうです。
 しかし、それはそれで、また、聴衆の、笑いのツボを刺激してしまったらしいのです。

 皆さん、
「じゃあ、一生戻ってこれないじゃん」
 と、心の中で、一斉に、ツッコんだそうです。


2006年12月21日(木)

 鮮魚部門に、昨日、新しいバイトが入りました。

 鮮魚の夕方からのバイトの、規定人数は、青果・精肉・ベーカリーと同じく、2人。なのに、今まで長いこと、笹渕さん(仮名、今年度で23歳・男)ただ1人しか、バイトがいない状態が続いていました。
 そして、その笹渕さんも、来月には、バイトを辞めてしまうことになっているのです。

 これは、いかにもマズい。そんな、マズい状況の魚屋に、ようやく、新たなバイトが入ってきたのです。

 でも、この人、本当は、魚屋ではなく、パン屋に配属される予定だったらしいのです。当初、店側は、そのつもりだったそうなのです。
 採用面接の際、「釣りが好きだから」という理由で、本人が、鮮魚入りを熱烈に希望したために、魚屋に配属されることになったのだそうです。

 しかし、なぜ店側は、パン屋のバイトなんぞを確保しようとしていたのでしょうか? それも、魚屋を差し置いて。

 実は、パン屋のバイトの渡辺さんが、今年一杯だか、この冬休み一杯だかで、辞めてしまうらしいのです。
 辞める理由は、学業成績が、著しく低下してしまったからだそうです。このままでは、とても、進級できそうにないのだそうです。

 パン屋の社員は、後藤田チーフ1人しかいません。そのため、1人でもバイトが欠けると、かなり大変なことになります。
 一方、魚屋のほうは、社員は3人もいますし、いつ他店に異動することになるか分からない身とはいえ、契約社員の村井(兄)さんもいます。だから、たとえバイトがいなくなっても、パン屋ほどの危機的状況には陥らないのです。実際、これまでも、笹渕さんがお休みの日には、村井(兄)さんが、本来の業務に加えて夕方からのバイトの業務をも担当し、穴を埋めてきましたしね。

 と、まあ、そんなような事情があって、店側は、新しいバイトを、パン屋に送り込みたがっていたというわけなのです。
 結局は、前述した通りの理由により、鮮魚行きになってしまったんですけどね。

 さてさて。仕事中、バックルームにて、後藤田チーフと出くわしました。そこで彼に、渡辺さん退職の話を振ってみると、いろいろと、語ってくれました。

 後藤田チーフによれば、当初、渡辺さんは、副店長の、イチオシの人材だったそうなのです。
 なんでも渡辺さん、採用面接の際、面接官であった副店長とのやり取りの中で、
自分、バカなんで……
 という言葉を、漏らしたらしいのです。
 その、飾り気のない謙虚な態度を、副店長は、エラく気に入ってしまったのだそうです。
 採用が決まってからも、副店長、たびたび後藤田チーフに対し、
「あいつは俺のイチオシだから。『自分、バカなんで』なんて言える、まっすぐな奴だから」
 と、渡辺さんのことを、プッシュしまくっていたそうです。

 そんな話をした後で、後藤田チーフ、哀愁を帯びた目をして、言いました。

「で、いざ、フタを開けてみたら、謙遜でもなんでもなくて、本当にただのバカだった


2006年12月22日(金)

 今日は、ラスボス会社の忘年会がありました。会場は、ラスボス会社本部の最寄り駅のすぐそばにある、某飲み屋。
 内定者という身分でも参加が可能だった(というより、そもそも、内定者をメインに据えた企画だった)ので、私ももちろん、参加しました。
 酒が飲みたかったのでね。

 来年度入社することになる内定者諸君は、私も含めて、全部で12名(男10名・女2名)。そのうち、この忘年会に参加したのは、10名(男8名・女2名)。
 現役社員の方々も、何名か、参加していました。社長や人事部長(2次面接で、私を苦しめた御仁)、それから、内定式の際にいた、緒形直人さんも、宴席に顔を連ねていました。

 午後7時から始まった、この忘年会の間中、私、ほとんど、ただ黙々と、ビールを飲み続けていました。結構緊張していましたし、親しく話せる間柄の人など、現時点では、いるはずもないので、ただただ飲むより、他なかったのです。
 たぶん、酒の席で、私がこんなにおとなしかったことなんて、いまだかつてないですよ。それくらい、無口でした。
 もっとも、無口っぷりは、他の内定者の方たちも、似たようなものだったんですけどね。

 一方、社長は、やはり、社長でした。
 彼、私からは、割と離れた席にいたのですが、その声は、ずっと、聞こえ続けていました。宴会の間中、彼、ずーっと、周囲の人たちに、喋り続けていたのです。
 やっぱり、すごい人ですね、この社長。
 それが、果たして、良いことであるのかどうかは、私には分かりかねますが。

 9時過ぎには、忘年会は、お開き。私、結局、本領を発揮できないまんまでした。

 その後、内定者のうち、男性陣は、成り行きで、飲み屋の前に集合。「せっかくだから、二次会にでも行くか」という流れになりました。
 二次会の会場は、近くのファミレス。二次会の話が持ち上がる前に帰ってしまった1人を除いた、男たち7人で、そこへ向かいます。

 この、二次会では、それなりに、会話が弾みました。「ラスボス会社について」だとか、「社長の、終わらない語りについて」だとか、「ドラゴンボールについて」だとかで、盛り上がりました。
 ちなみに、最も私の食いつきが良かったのは、ドラゴンボールに関する話題でした。
 ま、いうまでもないことですがな。

 しかし、なんで、ドラゴンボール!?

 互いの連絡先を交換し合った後、11時過ぎには、二次会も、おしまい。皆さん、家路につきます。

 ところが、私だけは、帰れません。
 もう、家にまで帰れる電車が、ないのです。

 だけど、これは、予定通りの展開。私、携帯電話で、ある人と、連絡を取り始めます。
 実は、夜遅くまで飲めるようにと、昨日の段階で、すでに、宿泊場所を確保してあったのです。

 そうです。この街に住んでいる、清水さんの家に、泊めてもらうことになっていたのです。

 連絡から十数分後、駅前で待つ私のもとに、一台の車が、姿を現しました。
 いわゆるその、清水カーです。
 清水さんが、お迎えに来てくださったのです。

 路肩に止まっているつもりなのでしょうが、どういうわけか、路肩から2メートル近く離れて停車している清水カー。私は、不安を押し殺し、その助手席に、乗り込みます。

 私と清水さんは、軽く、挨拶を交換。その後カーは、清水邸に向かい、発車します。

 車内で清水さん、「この街に引っ越してから、もう3回も、車で走行中、壁等に接触してしまった」などと、照れくさそうに語ってくれました。

 ふむふむ。やっぱり、少しヤバめだな、この人。

 ほどなく、清水さんのアパートに到着。私と彼は、中に入ります。

 彼、親切にも、私に、缶ビールを振る舞ってくれました。私が飲むだろうと考え、事前に、用意してくれていたみたいです。
 私、すでに、ビールはたらふく飲んでいるので、正直、もう飲みたくはなかったのですが、彼の厚意を無にしてしまうのは、忍びありません。小さなテーブルの上に置かれたそれを、少しだけ、いただくことにしました。

 それから、
「今日はケーキがあるから」
 と、清水さん、ケーキを持ってきます。
 大きくて真ん丸い、チーズケーキでした。

 なんでも、今、清水さんが働いている店の店長、社員全員に、クリスマスシーズンのお買い物の、ノルマを課したそうなのです。
 「22日から24日までの間に、クリスマスケーキを、最低でも、1人3つは買え」と、そういう命令が、出てしまったそうなのです。
 それで清水さん、仕方なく、デカいチーズケーキを買って帰ってきたというわけなんです。
 もちろん、明日と明後日も、別のケーキを、1つずつ買うそうです。

 清水さん、丸のままのチーズケーキを真っ二つに切ると、その片方を、紙皿にのせ、私に差し出してきます。
「今日は樫木君が来てくれて助かった。一人じゃ、とても食べきれないから、半分ずつ食べよう
 と。

 ケーキをご馳走してもらえるとは、予想外。ありがたいことです。私、喜んで、いただきます。お腹一杯だけど、我慢して、いただきます。
 清水さんも、食べます。そして飲みます。さっきまで仕事していた彼にとっては、これが、晩ご飯ですからね。

 清水さんは、チーズケーキを、あっという間に完食。食い終わるや否や、風呂場に消えてしまいます。
 対する私は、とても食いきれず、かなりの量を、残してしまいました。
 だって、お腹が一杯だったんだもん。それに、ビールとケーキって、死ぬほど合わないんだもん。
 清水さんは、平気だったみたいだけど。

 清水さんが長風呂から帰還後は、二人で、少し、くっちゃべります。話題は、「清水さんが異動した、新しい店のことについて」など。
 その後、午前1時くらいには、就寝です。清水さん、明日は、朝9時からお仕事ですからね。

 清水さんは、自分のベッドで、私は、床に敷いてもらった布団で、グースカと睡眠。そして、朝の8時に、起床します。

 起きたらば、朝ご飯。清水さんは、お得意の冷凍食品を、私は、ラップをかけたままテーブルの上に放置してあった、残りのチーズケーキを、食べます。私、この、朝飯編に入って、ようやく、チーズケーキを食い尽くすことができました。

 清水さんの出勤準備が終わったら、私たちは、部屋を出ます。彼、出勤のついでに、私を駅まで送ってくれるというので、お言葉に甘えさせてもらいます。

 車に乗って、しばらくの後、近くの駅(ラスボス本社の最寄り駅とは、違う駅)に到着。清水さんに、深々とお礼を言い、私は、彼と別れました。

 一夜の宿に加え、お食事まで提供していただき、本当にありがとうございました、清水さん。

 それにしても、自分の家には泊めてやらないくせに、人に家には平然と泊まるという、このずうずうしさ。
 私という人間の、真髄を見た気がいたしますな。


2006年12月23日(

 電車に揺られ、午前中には、無事、ラスボスタウンから帰宅。それからしばらくは、昼寝などして過ごし、夕方から、お出かけ。
 予約してあった、社販のクリスマスケーキを取りに、自分の勤めるスーパーに行ったのです。

 私が、特に必要もないのに、ケーキを注文してしまったことの背景には、鮮魚の大沢さんの存在があります。
 大沢さん、12月に入ってからというもの、夕礼の時間、やたらに、「クリスマス関連の社販を、バイトの皆さんも、是非、買ってくれ」などと、言っていたのです。
 彼の言葉に、強制するような意図や雰囲気は全くなかったのですが、それでも私、ついつい、予約してしまいました。
 なんとなく、「これは、何か買ってあげるのが筋ってもんだろう」という気分になってしまったためです。

 ケーキを受け取る前に、まずは、普通のお買い物。そこで、野沢さんと遭遇しました。

 彼、恐ろしいことを、私に告げてくれました。

 なんと、渡辺チーフが、ノロウイルスの洗礼を受け、ダウンしてしまったというのです。

 症状のほうは、もうすでに、ほぼ治まっているそうなのですが、それで終わらせてくれないのが、このノロウイルスの、厄介なところです。病院で検査してもらい、「体内にはもう、ウイルスはいません」というお墨付きをもらうまでは、出勤停止になってしまうのです。
 むむう。この、年末の忙しい時期に、これは大変でございまするな。

 お買い物を終えた後は、サービスカウンターに向かいます。ケーキを受け取りに行ったのです。

 こうして、私の手元にやってきた、社販のチーズケーキ。ケーキの中で、一番安いやつを選んで買ったのに、それでも、約1800円もします。

 ちなみにこのチーズケーキ、昨夜から今朝にかけて頑張って食べた、あのケーキと、全く同じ種類のものです。


2006年12月24日(

 今日は、クリスマス・イブ。店全体が、大忙しの日です。
 中でも、ダントツで忙しいのが、ベーカリー部門と、我が精肉部門。クリスマスケーキとローストチキンが、バカみたいに売れる日ですからね。

 そんな日だというのに、序盤戦から、不測の事態が。

 なんと、古谷チーフが、早退してしまったのです。

 私、今日は、午前11時からの出勤。更衣室でユニフォームに着替えていると、そこへ、どう見ても体調が芳しくなさそうな、古谷チーフが入ってきました。
 赤ら顔をして、フーフー言いながら、彼、
「朝から高熱があって、すごく具合が悪いから、今日は、もう帰るから。あとのことは任せたよ」
 と、帰宅の準備を始めます。鼻声な上に、喉の調子も悪そう。とても、マトモに働けるとは思えない状態です。

 結局、そのまま去って行ってしまうチーフ。
 私は彼を、
「お疲れさまです。お大事に」
 と、送り出した後、お仕事に向かいます。

 思いがけず、クリスマス・イブの肉屋の、指揮を執ることになった、春井さん。その春井さんから指示を受け、売り場で日付チェックをしていると、副店長が、通りかかりました。
「今日は、しっかり、春井の面倒を見てやってくれよ
 と、彼、私の肩を叩きます。

 相変わらず、尋常じゃないな。この、春井さんの、信用度の低さは。

 その後も、売り場で働いて働いて、時間は、午後2時過ぎ。私のもとへ、店長・副店長・春井さんがやってきました。
 副店長が、私に声をかけます。

「樫木、お前、トナカイの役やれよ
「え!? いいんですか? 是非、やらせていただきます

 なんだかよく分からないけど、面白そうなので、即答で、承諾してしまいました。

 承諾後、春井さんに尋ね、詳細を聞き出しました。

 なんでも、今日の午後3時、ウチの店に、サンタクロースが、やってくることになっているのだそうです。
 サンタさんは、お店に来てくれた、小学生以下の子供たちと、ちょっとしたゲームで対決をし、勝った子供にだけ、プレゼントをあげるのだそうです。
 で、その、サンタさんの役を演じるのが、我らが副店長。そして、お供のトナカイさんの役を演じるのが、春井さん。と、こういう予定になっていたそうなのです。
 しかし、古谷チーフが早退してしまった今、春井さんには、そんな余興に付き合っているヒマなどありません。
 そこで、「出たがり」で知られる私に、白羽の矢が立ったというわけらしいのです。

 胸をドキドキさせながら、加工肉の品出しなどして時を過ごし、2時半ごろ、副店長に声をかけます。そして二人で、店長室の中へと入っていきます。
 ここで、コスチュームに着替えるのです。

 早速、私たち、用意されていた衣装に身を包みます。着替えながら、少し、おしゃべりをします。
 これから、似たようなイベントを始めることにちなみ、私、ムーミンの着ぐるみに入った時の経験を、副店長に語ってあげました。

 私:「ムーミンの時は、子供たちにボコボコにされて、大変だったんすよ。あれ、足が異様に短くてバランスが悪かったんで、足を蹴られたら絶対にヤバいと思って、俺、ボコボコにされながら、ずっと踏ん張ってましたからね。どう考えても足が弱点なんですよ、あれ。ビグザムと同じです、ビグザム
 副店長:「いや、違う。ビグザムは宇宙にいるから、足を狙われても大丈夫だもん。むしろ、それでヤバいのは、ガンタンク

 ご立派ですね。
 夢を売る仕事に携わるのに、実にふさわしい大人たちです。

 さて、話しているうちに、我々の変身は、完了。どんなもんだったのか、ちょっと、解説いたしましょう。

 トナカイの衣装は、一着で、頭と手先足先以外の体全体を覆ってしまう、いわゆる全身スーツ。足から服の中に潜り込んでいき、袖に両腕を通します。最後に、副店長に背中のチャックを閉めてもらい、体の部分は完成です。
 次に、頭巾のようなものを、装着。頭にかぶり、アゴのところでヒモを結び、固定します。
 これで、トナカイさんの、出来上がりです。
 色は、全体的に、茶色。いわゆるトナカイ色。頭からは、やけにフニャフニャした角が、2本、生えています。なぜか2足歩行をするという点も、大きな特徴です。
 そして極めつけは、顔。頭部の大部分がトナカイ化する中、顔の部分だけ、まあるく、ありのままの姿になっているのです。
 私の顔が、そのまま出ているのです。

 サンタの衣装は、まあ、よくある、サンタの衣装です。赤い服に、赤い帽子。白くて長い髭に、白くて大きな袋。
 ちょっと、一般的なサンタさんと違うのは、メガネをかけていることと、衣装の下に身に着けているワイシャツとネクタイが、胸の辺りからのぞいていることぐらいです。

 さて、着替え終わった我々は、店長室を出て、店内を歩き回ります。
「メリィ〜クリスマァ〜ス。鮮魚コーナー前で、3時から、ゲーム大会があるよ〜。勝った子には、プレゼントがあるよ〜」
 と、副店長、いや、サンタさん、これから始まる催し物の、宣伝をします。
 私も、サンタさんの後ろを、
「メリ〜クリスマ〜ス」
 と、お客様たちに声をかけながら、歩きます。

 今回のイベントのターゲットは、前述の通り、子供。ですから当然、この、本番前の店内巡回に対する、子供たちの反応は、気になるところです。

 一番最初に、私たちについてコメントしてくれた子供は、4、5歳くらいの女の子でした。その子、一緒にいた親に向かって、こう言ったのです。

ね〜え。このサンタ、本物じゃないよ〜

 いきなり、トドメかよ。

 そんな惨劇とぶつかりながらも、頑張って宣伝をすること、数分。とうとう、お待ちかねの、午後3時。サンタさんと私は、子供たちへのプレゼントを台車に載せ、告知の場所である、鮮魚売り場前に向かいます。台車を引くのは、もちろん、トナカイさんである、私です。

 え? プレゼントは、サンタさんの持ってる袋に入ってるんじゃないのかって?
 いえ。あれには、古新聞が詰まってるんですよ。

 告知の場所。そこにはすでに、保護者同伴の子供たちの、長蛇の列が、出来上がっていました。早速、ゲーム大会の、始まり始まりです。

 順番に、サンタさんと、簡単なゲームで勝負をしていく子供たち。サンタさんに勝った場合のみ、プレゼントがもらえることになっているのですが、実際には、ゲームに参加さえすれば、確実にもらえます。
 サンタさん、わざと負けてくれるからです。
 もしも、サンタさんに負けてしまっても、心配はご無用。
 勝つまで、何度でも、挑戦させてもらえるからです。

 ゲームに勝った子供たちに、プレゼントを渡すのが、トナカイさんの役目。
「メリークリスマース」
 という言葉と共に、プレゼントである、お菓子とおもちゃの入った袋を、渡します。
 相手が小さな子だったら、その後、頭を撫でてあげます。去り際に、「バイバーイ」と、手を振ってくれたら、笑顔で、
「バイバーイ」
 と、返してあげます。

 参加してくれた子供たちの多くは、やはり、まだ小学校に上がっていないと思われる子でした。中には、とてもゲームなどできそうにもない子もいました。1、2歳ぐらいの子だとか、親に抱かれた状態の、赤ちゃんだとかです。
 でも、そんな子たちでも、何も問題なし。意外と子供の相手が得意なサンタさんが、実にわざとらしい八百長勝負をして、ちゃんと、勝ち星を譲ってくれるからです。

 しかし、せっかくサンタさんが勝ち星を譲っても、2歳くらいまでの子たちは、そもそも、勝ったらプレゼントがもらえるということすら、理解していません。だから、中には、私が渡そうとした袋を華麗に無視し、そのままどこかへ去ろうとする子なんかも、いるのです。
 そんな時は、私、

お嬢ちゃん、ほ〜ら、お菓子とおもちゃだよ

 などと、その子を呼び止め、プレゼントを、手にしっかりと握らせます。
 トナカイ人間の格好をして。

 分かったぞ。
 これが世にいう、知らないおじさんってやつだな。

 サンタさんの、実のお子さんも、ゲーム大会に参加していました。サンタさんの奥さんに連れられ、来ていたのです、娘さん2人と、息子さん1人。
 一番下の子である、サンタさんの息子さん(3歳くらい)、サンタさんの髭が、とっても恐ろしく見えたらしく、激しく泣いていました。
 サンタさんが、自分は父であるとカミングアウトしても、全く、信じてはくれません。
 結局、終始、泣きっぱなしでした。
 きっとサンタさんも、心の中で、泣いていたことでしょう。

 さてと。参加してくれた、何十人かの子供たち全員に、プレゼントを渡したところで、今日のイベントはおしまい。私とサンタさんは、満足げに、その場を立ち去ります。
 店長室の中に入り、そこで、変身を解除。スーパーの職員に戻り、何食わぬ顔で、部屋を出ます。

 ふー。これにて、特殊任務は完了。こっ恥ずかしかったけど、楽しかったです。

 それから副店長は、通常の業務に。私は、春井さんの指示に従い、とりあえず、休憩時間をいただき、お食事をします。私、今日は、忙しいので、夜までお仕事。今、飯を食っておかにゃあならんのです。

 食後は、いつも通りの、作業場の清掃作業。他に何もすることがないので、まだ4時台だというのに、掃除をするしかなかったのです。
 だったら帰れば良かったじゃないか、と思われるかもしれませんが、そうはいかんのです。夜から、忙しくなるのです。
 今、クリスマスモード一色になっている、精肉売り場。それを、今夜中に、お正月モードに変えなければならないのです。

 6時には、佐藤さんが登場。そのころにはもう、作業場の掃除は、おおよそ、片づいていました。
 この時点で、私は彼女に、作業場の仕事をバトンタッチ。自分は、売り場での値引き作業等に向かいます。
 その際に佐藤さん、言いました。

 佐藤さん:「ありがとうございます。なんか、こんなに掃除やってもらっちゃって」
 私:「いやいや、礼には及ぶよ。それに、感謝は、言葉だけじゃなく、形で示してくれてもいいんですよ。ゼニとか
 佐藤さん:「………」
 私:「………」
 佐藤さん:「……先輩って、モテないでしょ?
 私:「うん

 と、こんな、青春ストライクって感じの会話の後、私は、売り場で、バリバリお仕事。
 8時くらいからは、売り場の作り変え作業。私と春井さん、それから、掃除を終えた佐藤さんとの3人で、売り場を大胆にイメチェンし、9時には、3人揃って、業務を終了いたしました。

 さあて、あとは帰宅するのみ。
 今日、野沢さんから受け取った、ライダーチップスの箱を抱きかかえ、私、店をあとにします。

 この麗しき箱こそ、まさに、クリスマスプレゼント。今日一日頑張った自分自身に対する、クリスマスプレゼント

 メリークリスマス、俺。


2006年12月25日(月)

 売り場での、私と副店長の会話。

 副店長:「こないだ、秋葉原に行って、ガンプラを8つも買ってしまいました
 私:「大丈夫でしたか? オタク狩りに遭ったりしませんでしたか?
 副店長:「遭わねえよ!(笑)」

 平林副店長。この人の、レベルの高いところは、自分のことを、ちっともオタクだと思っていないというところですね。


2006年12月26日(火)

 今日と明日はバイトがお休み。

 この休みを利用して、溜まっていた日記を書き上げようと思い、張り切って、今日は一日中、ぐうたらして過ごしました。

 あれ? 何かがおかしいな?


2006年12月27日(水)

 昨日と今日はバイトがお休み。

 この休みを利用して、溜まっていた日記を書き上げようと思い、張り切って、今日は一日中、ぐうたらして過ごしました。

 あれれ? デジャヴ?


2006年12月28日(木)

 グロサリーの渡辺チーフ、本日、無事、「検査の結果、もう体内にノロウイルスはおらん」ということになったそうです。
 明日から、職場に復帰するそうです。
 野沢さんが、私に、そう話してくれました。

 めでたいことですね。
 大晦日までに間に合って、本当に良かった。

 しかし、疑問に思ったのは、私に、このことを話しながらの、野沢さんの行動。
 私の頬をつねったり、私の股間を肘で押し潰したりしているのです。


2006年12月29日(金)

 更衣室でユニフォームに着替えていたら、勝ち誇ったような表情の、後藤田チーフが入ってきました。
 彼、私に告げました。
 ライダーカードを、全て揃え切った、と。

 なんだとー。
 負けた。
 私は、あと1枚。あと1枚でコンプ。絶対に勝てると思っていたのに。

 しかし、よくよく考えてみれば、私の敗北は、必然だったのかもしれません。
 実は後藤田チーフ、私以上に頻繁かつ大量に、ライダーチップスをケース買いしていましたからね。
 やはり、その不断の努力が、ここへきての、この、強烈な差し足を生んだのでしょう。

「もう、嬉しくて、今日は、仕事を途中でやめて帰ろうかと思っちゃったよ
 と、満足げな後藤田チーフ。
 もちろん、私も、彼の偉業を祝福します。しますが、胸中には、悔しい気持ちが渦巻きます。

 それから、勝ち組の彼、負け組の私に、数十枚の、ダブりカードを渡してくれます。
 着替えを中断し、それを、一枚一枚確認していく私。

 そしたらね、なんと、その中に、あったんですよ。
 私がまだ持っていない、一枚が。

 もうね、二人してね、大喜びですよ。

 こうして私、僅差で敗れはしたものの、後藤田チーフと、同日ゴールを果たすことができたわけです。
 二人とも、166種類、カードを集めることができたのです。

 あれ? 166種類? カードは全部で171種類だから、まだコンプできてないじゃん。

 ところが、そんなことはないのです。事実上、これでコンプリートなのです。

 その秘密は、私がかつて購入した、ライダーカードの、オフィシャルカードバインダーにあります。
 実は、あのバインダーには、ものすごい特典が付いていたのです。

 それは、「お申し込みカード」という紙。
 その紙に、ライダーカード171種類のうち、どれでも5種類、欲しいカードのナンバーを書き、ハガキに貼り付け郵送すると、もれなく、その5枚のカードが、もらえるのです。

 つまり、私と後藤田チーフがまだ手に入れてない、残りの5枚は、すでに、確実に手に入ることが、約束されているというわけなのです。

 しかし、後藤田チーフは、いつの間に、バインダーを手に入れていたのでしょうか?
 それはですね、私が買った数日後ですよ。
 私がバインダーのことを話した、その日の仕事帰りに、早速、買ったのです。村井(兄)さんも、同じ日に、買いました。

 それからまた数日後、二人がバインダーを買ったという話を、副店長にしてあげたら、
みっともねえよなあ(笑) いい大人のすることじゃねえだろ
 と、返ってきました。

 ごめんなさい、副店長。
 それ、あなたが言っても、全然説得力がない。


2006年12月30日(

 閉店業務を終えた後、休憩室で、渡辺チーフに、お礼の言葉を述べました。

 私:「おかげさまで、ライダーカード、全部揃えることができました」
 渡辺チーフ:「おお。全部揃ったか!」
 私:「はい。なので、第1記録のほうは、もういいです。来月になったら、第2記録のほうを、お願いします」
 渡辺チーフ:「そうか。じゃあ今度は、第2記録のほうに、行きますか!」

 はて……?
 第2記録? 聞き慣れない言葉が出てきましたねえ。それは一体、何者でしょうか?

 解説しましょう。
 実をいうと、私が揃えた、171種のカード。あれ、ライダーカードの全てでは、ないんです。
 ライダーカードの、「第1記録」とかいうやつに、すぎないんです。
 まだまだ、ライダーカードシリーズには、続きがあるんです。
 第2弾である、「第2記録」が発売されるのは、来月の後半。年が明けたら、また、新しい戦いが始まるのです。

 ちなみに、このライダーカードシリーズ、第何記録まで続くのかは、現時点では、定かではありません。

 まさに、果てしないバトル。光と闇の、果てしないバトル。
 燃えてきますね!

 私の財布も、大炎上です。


2006年12月31日(

 本を読み終え、レポートを書き始め、そして書き上げ、午後3時ごろ、メールに添付して、ラスボス会社に送信しました。

 実は、10月1日の内定式の際、内定者全員に、いわゆる宿題が出されたのです。
 課題図書(仕事に関係のある内容)を読み、レポートを書くという宿題です。
 それを私、締め切り日である今日やり始めて、やり遂げたというわけなんです。

 もちろん、出来は、それはそれは、目を覆いたくなるようなものでした。
 でもまあ、きっと、出しゃあそれでいいんです、出しゃあ。そうだそうだ。うんうん。

 さて。今日は、相棒の佐藤さん共々、午後4時から出勤。店が1年で一番忙しい日、大晦日ですからね。ただでさえクソ忙しいのに、棚卸しまであるイカした日、大晦日ですからね。

 出勤したらすぐに、バックルームで、鮮魚の飯間チーフに声をかけられました。

 飯間チーフ:「お前、ライダーカード、揃っちゃったの?」
 私:「はい。揃いました」
 飯間チーフ:「お前、じゃあ、ダブッたカード、全部持ってこいよ」
 私:「はい。いいですよ」
 飯間チーフ:「村井には渡すんじゃねえぞ。村井には、俺のダブッたのを渡すから。村井に渡したりしたらお前、殺すぞ
 私:「俺、殺されるんですか(笑) それは気をつけないと」

 なかなか強烈なパワハラです。
 もちろん、飯間チーフ、「殺す」などというのは、明らかに冗談で言っているのですが、それでも、結構な威圧感。おっかないです。
 なにしろ、この、飯間チーフという人、ここ数年で、だいぶ丸くなったそうなのですが、かつては、無能な部下に対して、包丁を投げつけるなんてこともあるような人だったらしいのです。
 そりゃあ、おっかないに決まってますよ。

 それはそうと、いつの間にか飯間チーフも、ライダーカードの虜になっていたんですね。
 うむ。感心な心がけであるな。
 自分では一切商品を買わず、他の人のダブりカードのみに頼って集めているという点は、ちょっとアレですけどね。

 働き始めてから4時間後の、午後8時には、店じまい。大晦日は、混みまくるけれども、お客様の引きは、早いのです。だから、早めに、閉店してしまうのです。
 それでもまだまだ、お仕事は続きます。棚卸し等の業務が、残っていますからね。皆さん、一丸となって、働きます。

 9時台には、肉屋の仕事はおおよそ片づき、佐藤さん・古谷チーフ・春井さんらは、相次いで帰宅。他の、多くの部門の方々も、それぞれの仕事を終わらせ、次々と、帰っていきます。
 本日が最後の出勤となる、パン屋のバイトの渡辺さんも、帰宅しました。
 今までお疲れさまでした、渡辺さん。無事に進級できることを、祈ってるよ。

 残ったのは、店長・副店長・渡辺チーフ・野沢さん、そして、私も含めた、閉店業務担当のバイト4名。みんなで手分けして、残りの作業を行います。私は、グロサリー部門の棚卸し作業を手伝いました。

 10時半ごろには、全てのお仕事が完了。全員、店を後にします。
 今年は、結構、早かったですね。去年の大晦日なんぞは、年越し近くまでかかったっていうのに。

 そういえば去年は、仕事が長引きそうだったからか、夜10時台に、店長が、店に残っている全従業員を休憩室に呼んで、ショートケーキをご馳走してくれたんですよ。まずは、みんなで美味しいものを食って、腹を満たして、英気を養って、それから全力で、残りの作業に取りかかろう、ってことで。

 店長、その時、「ケーキは1人2個ずつ」と、言っていたのですが、みんな、遠慮してしまって、1個しか食べないんです。
 だから私、他の人が食べないならその代わりにってことで、一人で、3つもケーキを食べてしまいました。誰にも許可を得ずに、勝手に食べてしまいました。
 いやあ、得したなあ、あの時は。

 すいません。どうでもいい回想が、長くなりましたね。

 では、一年の締めと行きますか。

 今年1年の間に、当サイトに来てくださった方々、本当にありがとうございます。来年2007年も、どうぞ、よろしくお願いいたします。  良いお年を!

 ……まあ、この日記を書いている今現在、とっくに、2007年なんですけどね。



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